6月16日ふじのくに防災フェロー「企業防災と事業継続論」-科目受講生記事/フェロー4期修了生-
兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科 紅谷昇平先生による「企業防災と事業継続論」。
今年度、初めて開講された講座で、企業や地域産業の被災の特徴、企業活動と財務諸表の基礎、企業のリスクマネジメントの基礎、企業の事業継続計画の基礎について学びました。
1.企業や地域産業の被災の特徴
自治体やNPOと異なり、企業は「利益を出す」ことを目的とした営利組織です。企業・産業部門の復興の難しさとして、阪神大震災を例に人口は被災前水準を上回ったものの、産業復興は被災地はその指数が20年後、マイナス21となりました。その理由としては、①営業再開の為、被災地外で本格移転する。②得意先、取引先がいなくなる。③ライバルとの競争が激化する。等があげられます。企業ではサプライチェーンを通じて被害が取引先に波及していきます。その為、人的被害や住宅被害と比較すると間接被害が大きく被害の把握が難しい。製造業はいち早く復旧する為、地域外に流出する傾向があります。又、地域の雇用や活力の維持の為にも企業のリスクマネジメントは重要です。更に、建物の耐震性の維持、従業員や利用者の安全確保を怠れば、訴訟リスクがあります。
2.企業活動と財務諸表の基礎
企業にとっては、防災であれ何であれ、経営への影響を売上・経費・経費・利益と言う金額に結び付けて考える事は不可欠です。「直接被害」「間接被害」という概念をイメージとしてだけではなく、企業の利益・損失として定量的に捉えられるようにしなければなりません。その事が「防災投資をするメリット、費用対効果」や「企業にとって、効果的な支援策」を具体的に考えられる事につながります。そこで兵庫県立大学の4回生の室崎君が卒業後始めたパン屋「むろパン」を例に計算演習を行ないました。計算の結果としては、震災の設備破損の一時的の影響よりも震災後の人口減の売上げ減が被害より大きいという例題でした。
3.企業のリスク・マネジメントの基礎
阪神大震災、2000年問題、9.11テロ、新型インフルエンザ流行、東日本大震災等大規模な災害、事故を契機にリスクマネジメントのガイドラインや基準が提唱されてきた。現在、国際規格としてISO31000リスクマネジメント規格(2009)、ISO22301事業継続マネジメント(2012)があります。
対象はリスクマネジメントは好ましい影響を含むリスク、軽微なリスクまで幅広いが、事業継続マネジメントは組織の業務継続に悪い影響がある重大なリスクだけです。
リスクマネジメントの第一段階は自ら(組織)について知る事(組織の状況の特定)、第二段階は敵(リスク)が何なのか特定します。リスクを特定した後は「影響の大きさ」「起こりやすさ」の点からリスクマップ・ハザードマップ等の方法を用いてリスクを見えやすくします。その後、リスク評価を行い、対応すべきリスクの優先順位を評価していきます。リスク評価では影響・起こりやすさだけでなく、法令、会社の基準・理念、関係者の意見等も考慮して決定します。優先順位の高いリスクからリスク対応を考えます。基本的なリスク対応の手法は「回避」「低減」「移転」「保有」です。又、影響度と起こりやすさの傾向と望ましいリスク対応の手法には大まかな関係があります。しかし、実際にはリスク対応にかかる費用
リスク対応のリスク等も考慮し、どの方法を採用するか決めていきます。
4.企業の事業継続計画(BCP)の基礎
建物の安全性、顧客・従業員の安全性の確保は企業にとって法的、或いは道義的な責務です。BCM、BCPは「深刻な危機」において「企業の経営」の視点から重要な事業に絞り込んで継続、或いは早期再開をし、企業の存続を目指すマネジメントの考え方です。事前に被害軽減の為の対策(耐震化等)だけでなく、災害時いかに早く態勢を整え、速やかに復旧を進めるかポイントとなります。建物や設備の物的な被害ではなく、経営へのダメージを評価するので、代替拠点や代替生産の協定等で対応することも可能です。近年は、サプライチェーン(取引関係)によって影響が拡大するので、自社だけでなく、顧客・取引先と連携して取り込む事が求められています。
私は企業で国内外の企業防災、事業継続計画、管理の業務も行っています。企業では実務面
を求められますが、体系的な理論・基礎を知っていないと様々なケースでの応用が利きません。
今回改めて体系的、学術的に企業防災、事業継続計画、管理を学ぶ事が出来ました。今後の
業務の応用に活かしていきたいと思います。
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